こちらの記事にありますようにGoogleは、アクセンチュアやデロイトといったコンサルティングファームとクラウドビジネス領域において本格的にパートナーシップを締結するようです。

具体的にはGoogleが提供するGoogle Cloud Platform(以下、GCP)のエンタープライズ顧客へのシェア拡大のためにコンサルタントと協業するようです。GCPのエンタープライズ顧客への導入シェア拡大のためにはアクセンチュアなどのコンサルファームと提携することが戦略的に最適と判断したのでしょうか。

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クラウドビジネスと市場規模

GCPのようなクラウドビジネスはインターネット上にあるコンピューティングリソースを使用料に合わせて課金していくビジネスで、Amazonが2006年に開始したビジネスと言われています。顧客にとっては、以前のように自社でサーバーを購入し保守する必要がなくなるメリットがあります。

世の中に登場してまだ13年ほどですが、下記の指標によると2019年度の世界規模でIaasで約4兆円、Passで約2兆円規模の巨大市場になっています。この市場はまだまだ成長が続く見込みで2022年ではIaas+Passで10兆円の市場規模になるようです。

source: https://japan.zdnet.com/article/35135407/

その中でGoogleのポジションを見ると、ライバルであるAmazon AWS(以下、AWS)に大きく差を開けられていることが分かります。この差をどうやって埋めていくのが、Googleのクラウドビジネス上の課題であると考えられます。

source: https://www.srgresearch.com/articles/leading-cloud-providers-increase-their-market-share-again-third-quarter

アクセンチュア・デロイトの思惑

対してコンサルフォームの思惑について考えてみたいと思います。すでに多くの報道がされていますが、近年のテクノロジーファームは従来の顧客のシステム構築だけでなく、マーケティング領域の予算獲得のために積極的な買収や採用を行ってきました。クリエイティブエージェンシーの買収やデジタルマーケティングに明るい人材の採用は、日本国内ではそこまで聞かないのですが、海外での事例は多いようです。海外ではすでに従来型のマーケティング・広告代理店とコンサルティングファームの戦いははじまっており、日本にはいつ来るのか、または来ないのかは多くの人の関心ごとではないでしょうか。

そのアクセンチュア・デロイトが置かれている立場を考えていると、競合の一つにIBMがおり、IBMはご存知の通りハードウェア・ソフトウェア・コンサルティング・などテクノロジー領域であればあらゆる領域でビジネスを展開しています。

特に近年ITサービス分野で注視されている領域の一つに、データ分析もしくはAI関連のサービスがあります。企業あらゆるデータを分析し、価値ある経営判断ができるようにする、ビジネス上の競争優位につながる提案をすることで、クライアントのビジネスをサポートするわけなのですが、IBMは自社でWatsonというAIを開発しており、自社AIをクライアントの製品に組み込むことから、ビジネスコンサルティングまで、クライアントに対して全方位的に提供することができますが、基本的にはコンサルティング機能しか持たないアクセンチュアやデロイトはこの領域で勝負するためには、AIやデータ分析の技術を持っているパートナーと組む必要があったのではないかと想像できます。

Googleのビジネスモデル

Googleのビジネスモデルとして特徴的なことの一つにエンジニアリングに特化していることあると思います。基本的には新しい技術開発やそれを元にしたプロダクトを開発しますが、顧客に対してサービスを行う部門を持ってきていませんでした。

例えばAdwordsにしても、GoogleAnalyticsにしても基本的にはGoogle社員は一部の例外を除き、それらのプロダクトを使ったエンドクライアントへのサポートは行わず、パートナーに任せています。

国内ではAdwords運用については広告代理店やっていますし、GoogleAnalyticsの導入サポートなとも認定パートナーといった形で第3者が提供しています。要は人月ベースのビジネスは一切展開せず、エンジニアリングに注力することで社員数を抑えて、高収益な企業体質を構築してきたと言えます。

そういった背景からも、自社のクラウドプラットフォームを拡大はしたいが、サービス要因は抱えたくないGoogleと自社でIBMに対抗する開発機能を持たないコンサルティングファームの利害が一致したということなのでしょう。

Googleの収益構造とAmazonの脅威


Google wants to scale its capabilities in artificial intelligence, machine learning and data science to industries beyond advertising. And with 80% of parent Alphabets revenue coming from advertising, Google sees cloud services as a way to diversify its revenue.

https://adexchanger.com/platforms/google-aligns-with-consultants-on-cloud-as-marketing-converges-with-the-enterprise/

もう少し読み進めていくと、Googleが創業以来の収益ポートフォリオを広告依存から脱却させようとしていることが書かれています。80%の収益を広告から得ている現状を変更しなければいけない理由があるのでしょうか。

Googleは広告ビジネスで年間3兆円以上の利益を上げているわけで、この収益構造をベースに考えると世界一の広告会社と見ることができ、もう誰もGoogleには追いつけないレベルまで到達していると思います。2位のFacebookでさえ、Googleにはとても追いつけないぐらい圧倒的な差があるのですが、ここに来てAmazonが急速に広告ビジネスを伸ばしていきています。Amazonの広告ビジネスはすでに7,000億円レベルにまで到達しているらしく、すでに世界3位の広告会社として見ることができます。Amazonは成長率という点ではGoogleとFacebookを圧倒しており、個人的には数年後にはFacebookを抜いてもおかしくないと考えています。

広告領域ではGoogleを猛追し、クラウド市場では圧倒的な差をAWSにあけられているわけで、Googleとしてはやはり唯一Googleを脅かす存在としてAmazonを意識していることは想像できます。

マーケティング領域の重要性


Google has historically kept its advertising and cloud businesses separate, but the two are starting to overlap as CMOs increasingly rely on data and analytics. BigQuery, Googles data warehouse, is a popular tool for businesses to run analytics across the enterprise, from sales to marketing, CRM, logistics, etc.

https://adexchanger.com/platforms/google-aligns-with-consultants-on-cloud-as-marketing-converges-with-the-enterprise/

こちらにはGoogleが従来は広告ビジネスとクラウドプラットフォームビジネスをまったく別のビジネスとして捉えてきたことが書かれています。また近年、それが別々ではなくビジネスとして関わってきているとも書かれています。

これは個人的な経験からもその通りだと感じています。最近はデータサイエンティストなどの職種の重要性も叫ばれている通り、しっかりビジネスを分析してそれを施策に結びつけることが成功するためのビジネスを成長させる上で重要な要素となっています。

Googleのプロダクトの話をすると、自社でサイトを運営していれば、GoogleAnalyticsでユーザーのサイト上の構造を分析することができます。ECビジネスを展開しているならば、ユーザーがある商品を見たけども購入しなかったとして、購入してもらえなかったので詳しい個人情報は分からないけれども、もしかしたらまだ興味を持っていて、広告を表示することで購入してもらえるかもしれません。このような場合、GoogleAnalyticsで似たような行動をした人をマーキングして、Adwordsに連携し、広告配信することが可能です。極めてシンプルな例ではありますが、近年ではマーケティングテクノロジーは大きく進化しており、この「誰に配信するのか」を決めるために使えるデータが自社のサイトのデータだけでなく、自社の別のサービスのデータ、他社のデータ(提供している場合)など多くの選択肢があり、自社の別のサービスのデータを保存しているのがGoogleのクラウドDBだったりするわけです。であれば、クラウドのデータをスムーズにAdwordsに使えるような仕組みにしておくと、必然的にAdwordsの売り上げが伸びたり、Adwordsのデータを簡単に分析できるサービスをクラウド上に用意することができればクラウドビジネスの拡大も見込めたりします。

ただ難しいのはこの領域は、マーケティングの知識は要求されますし、データ分析、エンジニアリングの知識・経験も必要になったり、かなり高度なスキルが要求されます。従来の広告代理店にはエンジニアリングに強い人材は一般的にはいませんし、このような高度人材を多く抱えている会社がITコンサルティングファームということもあり、いろんな視点で今回のパートナーシップは必然のように思えてきます。


While Google and consulting firms offer a powerful sell to marketers, their alliances could further consolidate Google’s dominant position in the advertising industry and leave marketers with less choice when it comes to their technology decisions.


“This disruption of agencies and the move of CMOs into the enterprise suite is wildly attractive to us,” Galizia said. “Google’s position there is significant.”

https://adexchanger.com/platforms/google-aligns-with-consultants-on-cloud-as-marketing-converges-with-the-enterprise/

最後にこのようなGoogle+ITファームの取り組みが浸透することにより、従来型の広告代理店がディスラプションされる可能性はあるのでしょうか。国内は分かりませんが、海外ではすでにはじまっているようにも見受けられますし、このGoogle+コンサルティングファームの取組が日本国内のマーケティング業界に対してどのような影響を及ぼすのかについては個人的に興味を持って注視していきたいなと思います。