先日グーグルが発表したニュースが業界ないで話題を集めています。グーグルはすでに2022年を目処にchrome上でサードパーティクッキーを使用できないようにする方針を発表していました。昨今のプライバシーに対する懸念の高まりにおいて、AppleのsafariやMozillaのFirefoxなどは率先してブラウザ上でのサードパーティクッキーの利用を制限する方針を発表していましたが、それはAppleやMozillaが広告収益に依存しないビジネスモデルのため、よりセキュリティを重視することでよりユーザーにとって安心安全なブラウザであると認識してもらうことで、シェアを伸ばす目的があったのではないかと考えられます。Googleも多少遅ればせながらもこの動きに追随した格好ですが、収益の大部分を広告に依存するGoogleがどのような方法でクッキーがなくなった世界で、以前と同じような広告配信の精度を確保していくのかについては、広告代理店や広告主、テクノロジーベンダーの大きな関心ごとでした。そこにきて、この発表なので様々な憶測が飛び交っていますが、私も考えてみたいと思います。

まず大前提ですが、いま世界の広告配信枠は大きく2つに分類されます。一つはGoogleの検索結果やYoutube、Facebook、Twitter、Amazon内のスポンサー広告などプラットフォーマーと呼ばれる事業者のサイトの広告枠です。この枠に広告を出稿しようと思うとプラットフォーマーが運営する広告配信プラットフォーム経由でしか広告を配信できません。完全に独占で、他社が関与できないことから海外ではWalled Gardenと呼ばれています。精度の高いデータを囲っていること、大量のトラフィックがあることから、多くの広告主が広告を出稿し、莫大な利益をあげています。このWalled Gardenで使用されるのは彼らの自社のクッキー(1st party cookie)であるため今回Googleが発表したサードパーティクッキーの制限の影響は受けません。ちなみに日本で言うと、規模は違うもののLineやYahooJapan、SmartNewsなどのこちらに分類されます。

もう一つの広告枠はその他の多くの媒体やブログなどの広告枠です。こちらの枠はGoogleが提供するAdsenseやSSP事業者から広告を配信してもらっていますが、こちらの広告枠は誰でも広告を出稿することができるため、オープンな広告枠と言われています。配信にはGoogleが提供するGoogleDisplayNetworkやDSPなどの広告配信プラットフォームから配信可能です。こちらはサードパーティクッキーを利用しています。すでにAppleのSafariによるサードパーティクッキーの制限などの影響は受けていますし、GoogleのChromeの影響も受けます。

さて軽く前提についてお話したところで、今回のGoogleの発表の背景を考えてみたいと思います。上記で説明した通りGoogleはWalled Gardenとオープン枠の両方に広告配信を行っています。サードパーティクッキーの規制はGoogleを含めオープン枠に広告を配信している事業者(DSPなど)に大きなダメージを与えます。広告配信精度が大きく落ちると予想されるので、広告出稿額も減少する可能性が高いです。なのでサードパーティクッキーに変わる代替技術が開発されるのかが、業界内では大きな関心ごとで様々な事業者がクッキーに変わる代替技術を発表しアピールしていたのですが、結局のところ世界最大の広告事業者であり、ChromeというシェアNo.1ブラウザを持つGoogleの動向に左右されるので、は多くの関係者の注目を集めていました。そして、ここにきて代替技術を開発しないと発表したので多くの方が衝撃を受けたのではないでしょうか。クッキーがなくなっても、代替技術を使って同じようなターゲティングができることを期待していた事業者も多いと思うので、当事者にとっては将来の事業を左右するニュースだったと思います。

ただGoogleにとって見ると、オープン枠でたとえ出稿額が減ってもそれらの広告費が自社の検索連動広告やYoutubeなどに回ってくる計算があったのかもしれません。またオープン枠での戦いにしても、世界最大のプレイヤーであるGoogleを唯一脅かす存在であるAmazon(アマゾンはAmazonDSPを提供しています)にサードパーティクッキーを制限することでダメージを与えることができます。インターネット上での検索やページ閲覧などの行動履歴を持つGoogleに対して、Amazonはユーザーが実際に何をどのような頻度で購入しているかなどを購入情報を持っているのでAmazonの方がデータの質が高いと一部で言われており、AmazonDSPはここ数年で一気にシェアを伸ばし、あっという間にGoogle、Facebookにつぐ世界第3の広告事業者に躍り出ました。Googleはたとえサードパーティクッキーが使えなくなったとしても、Chromeというブラウザを持っているので様々なデータを収集することが可能です。すでにFloCという技術についても言及しています。他社に大きなダメージを与え、自社のダメージを最低限に抑えることで有利なポジションを築こうとする思惑があるのかもしれません。

ユーザーの個人情報の保護・プライバシーに対する懸念を背景に特に欧米では法整備がここ2、3年すごい勢いで進んでいますが、その中でもインターネットの覇者と呼ばれるGoogleやAmazonの広告事業をめぐる熾烈な競争と、広告事業を主な収益源としないAppleが主導するプライバシー保護を最優先するインターネット社会のあり方など、多くの思惑が入り乱れているのでとても興味深いです。今後のインターネットの方向性を左右する法律・規制・技術など次の2、3年で決まりそうな予感がありますので、注視していきたいと思います。