こちらの記事にありますようにリクルートキャリアが企業に対して、学生の内定辞退の予測データを販売していた問題が炎上しているようです。今回の問題の詳細や是非についてはリンク先の記事を参照いただくとして、個人的には今回の問題が取り上げ荒れたことで、今後の個人情報の扱いをどうしていくのか、HR業界への影響について考えてみたいと思います。

何度か取り上げているようにここ数年はインターネット上での個人情報をどのように扱っていくのかについて世界規模で大きな議論が巻き起こっています。特にEUではGDPRをはじめ、個人の情報(名前や住所などだけでなく、インターネットサービス上での行動履歴などを含め)は個人のものであるので、企業が勝手に自社の利益のために使ってはいけないという方向に舵を切っているように感じます。対して、アメリカはどちらかという匿名化した情報で荒ればサービス向上のために利用してもよいというスタンスであると感じます。実際GoogleやFacebook、AmazonなどのWebの大企業は便利なサービスをユーザーに提供し、得たデータを分析し、よりよいサービスにすることで、より多くのデータを集めるというサイクルを実現し、大きく成長してきました。創業20年ほどで、GoogleやAmazonなどは実質、時価総額世界トップクラスになっているわけです。

さて今回のリクルートキャリアの問題を見れば明らかなのですが、日本は限りなくアメリカ寄りの立ち位置であることが分かります。なぜならば、リクルートキャリは同意を得ている・得ていない関わらずに学生の個人情報を加工し企業に売っていたわけで、この場合学生に対して特に何の便益も提供せず、自社の売上の向上のためを企んでいたと捉えられてもおかしくないわけで、炎上したのも理解できるような気がします。要はタダで仕入れたものを、企業に売っている利益を上げていただけでなく、それが情報の提供元である学生に不利に働く可能性があったわけなので、学生の心情としては理解できます。

今回の問題を受けて今後活発になるのではないかと予想されるのは、個人のデータは誰のものかということかなと。やっぱり個人のデータは個人のものなので、企業としては預かっているだけなので適切な管理をしなければいけない。適切に管理せずに個人情報を流出させた場合は、何らかの罰金が課されるようになるのか。(EUではパスポートを含む個人情報を流出させたマリオットに200億円規模の罰金が課されました)それとも、サービスを利用する上で取得した情報は企業のものなので、匿名化などの対策をしっかり実施していれば機械学習・AIなどを通じて自由に使っていいのか。今後の展開次第では日本における個人情報の扱いに大きな影響を与える可能性があるなと思って、気になっています。今回、議題に挙がっているのがリクルートという日本を代表する企業であることも、議論がここまで大きくなっている要因だとは思います。

次に人材・HR業界に対する影響についてです。人材業界ではここ数年、HRテックと称して転職会社や採用部が持っている個人情報の有効活用を積極的に進めてきていたと思います。例えば過去には、学生のエントリーシートの合否にAIを使ってみる試みなども紹介されていました。この時も学生の心情としては自分の将来をAIに判断されてたまるか、という意見もありましたが、では新卒二年目の人事担当だったらよいのか、という議論もあり、AIであれば全部のエントリーシートに同じ基準で読み込むことが可能なので、そちらの方がより公平ではないのかといった議論が一部で起こって記憶があります。

ただ例の場合は一企業が自社のデータ(エントリーシートなど)を自社の業務効率化のためにデータを利用するという話だったので、今回のリクルートのような企業が自社が保有するデータ(加工されているにせよ)を別の第3者に提供する話なので別なのですが、学生の自分の合否判定に不利に働くのではないかという不安感みたいなところがエネルギーになっているという点では似ているような気もします。人材業界は論理的・合理的・法的にという観点以外にも学生のこのような心情にも十分配慮してサービス設計していかないといけないなと感じました。そして、それは今回問題になったリクルートキャリア以外の人材会社も同様なのだと思います。今回提供されていたというデータは企業が内定を出した学生の自体予測なので、技術的な観点では匿名化された統計データなのではなく、その学生の閲覧履歴や応募履歴などのような行動情報がベースになっている可能性が高いです。これらの情報によって辞退予測しているとなると個人情報やプライバシーはどのように守られるかは疑問です。同意を得ている得ていないに関わらず、業界として考えた方が良いのかもしれません。

また別の観点では、中途採用の場合は普通に先ほど問題になった情報が提供されていることもあると思ったりもします。中途採用の場合は、転職エージェントというサービスもあり、これは採用コンサルタント(またはキャリアコンサルタント)が転職希望者に寄り添いががら転職活動をサポートしてくれるサービスです。転職希望者には、キャリアの相談にも乗ってくれます。また採用側としては、自社の採用活動をサポートしてくれます。さて個人的に気になった方は、私も転職の際には利用したことがあるのですが、転職エージェントは自分が担当する転職希望者に内定を出してくれた企業に対しては、その転職希望者が他にどのような企業から内定をもらっているのかなどの情報を伝えていることがあるのですが、これはどうなのだろうと。中途の場合は、他者からの内定情報は給与交渉の材料としても使われることがあり、中途内定者への提示給与が上がると、転職希望者は嬉しいし、エージェントは基本的に転職者の新年収の2、3割が報酬になるので売上があがって嬉しい、企業は採用できて嬉しいといった構図になることもあり、必ずしも転職希望者の情報が提供されることがマイナスにはなっていないのかもしれません。